遺言に関する相続トラブル

被相続人が生前残した遺言書。遺言書には種類があり、その保管方法もさまざまです。たとえば、公正証書遺言であれば、昭和64年1月1日以降に作成した場合には公証役場に照会をかけることで遺言書が残っているかどうかを確認することができます。被相続人死亡後、法定相続人であれば内容を確認することが可能になります。

しかし、自筆証書遺言のように被相続人が自分で遺言書を作成した場合は、保管方法に決まりはとくにありません。そのため、遺言書がどこにあるのか、そもそも遺言書が本当に存在するのかという確認作業から始めなければいけません。

また、このように存在自体が不明瞭な自筆証書遺言書は、相続発生後に「他の相続人が被相続人に無理やり書かせたものだ」「他の相続人が遺言書の内容を開示しない」「他の相続人が勝手に遺言書を破棄した」といったトラブルに発展することも少なくありません。

ここでは、遺言書に関する基本事項からトラブルの状況に応じた解決の流れについて解説します。

遺言書の探し方

被相続人が遺言書を書いていたかどうかわからない場合は、被相続人の自宅などに遺言書が残されていないか確認するところから始めます。公正証書遺言のみとなりますが、公証役場で確認することができるので照会をかけておきましょう

公正証書遺言以外の形式の場合は、他の相続人や被相続人と親しかった人たちに相談し、遺言書作成の有無について確認を行うこともポイントのひとつです。相続人の間で既に相続財産をめぐって争いが起きている場合には相談も難しい状況かと思われますので、今後の対策について一度弁護士に相談することをおすすめします。

  • ※2020年7月10日より、自筆遺言についても法務局での保管が可能となりますので、確認が必要です。

遺言書は勝手に開けてはいけない

自筆証書遺言が見つかったら、封筒に入っている場合は勝手に開封してはいけません。

開封してしまうと偽造や改ざんを疑われ、場合によっては5万円の過料を支払うことになりますので、必ず家庭裁判所に持ち込むようにしましょう。なお、法務局に保管された自筆証書遺言は検認が不要です。

他の相続人が遺言書を隠している疑いがある場合

遺言書の内容を書き換えたり、遺言書を偽造したり、勝手に破棄したり、隠したりする行為は発覚すると、相続人の権利を失います。法律で定められた「相続欠格」という制度に当てはまります。

「公正証書遺言」の場合は公証役場で作成したかどうか、作成している場合にはその内容も、相続人であれば確認することができます。「秘密証書遺言」についても、作成内容まではわかりませんが、作成時に公証役場で署名と捺印が必要なため、作成したかどうかは確認することができます。「自筆証書遺言」の場合、遺言書の存在が明らかであれば、調停や審判(裁判)などの裁判手続きを行うことで解決を図ることができます。存在が不確かな自筆証書遺言の場合は、その存在を証明することは難しいため、相続人同士で決める遺産分割手続きを行うことになります。

遺言書に自分の相続分がない場合

特別な理由がない限り、遺言書の内容は優先されます。しかし、相続人であるにも関わらず、遺言書に自分の相続分がない、または著しく少ない場合には遺留分(法律上守られている最低限の相続財産を受け取る権利)を主張できる可能性があります。遺留分を主張できるのは、被相続人の配偶者と子ども(代襲相続人)、もしくは親(直系尊属)に限られます。法定相続人であっても兄弟姉妹は含まれません。

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遺留分について

遺産分割後に遺言書が見つかった場合

相続人全員で合意し、遺産分割協議書を作成した後に遺言書が見つかったらどうすればいいのでしょうか。まず、遺産分割後であっても遺言書は勝手に開封してはいけません。発見した遺言書は開封せずにそのまま家庭裁判所に持って行きましょう。

遺言書の内容と遺産分割協議書の内容が異なる場合、基本的には遺言書が優先されます。たとえ相続人全員が納得して作成した遺産分割協議書でも無効になります。しかし、遺言書の内容を相続人全員が確認し、それでも遺産分割協議の内容を優先させたいと再度全員の合意が得られれば遺産分割をやり直す必要はありません。ただし、相続人の中の誰か一人でも「遺言書を優先したい」となれば再度協議が必要です。遺言書の内容に「子どもの認知」や「相続人以外への遺贈」があった場合も再度協議が必要となります。

無理やり書かされた遺言書の可能性がある場合

「他の相続人の悪評を吹き込んで自分の都合のいいように遺言書を書かせた」「脅迫して無理やり遺言を書かせたり変更させたりした」「認知症の被相続人に遺言書を書かせた」というような場合、他の相続人は遺言無効確認の訴訟を起こすことができます。認められた場合は、書かせた相続人は相続の権利を失い、遺言書は無効になります。しかし、無理やり書かされた遺言書であっても、「無理やり書かされた」という証拠がなければ立証は難しくなります。認知症をはじめ、病気やケガなどを負っている被相続人に遺言書を書かせた場合は、遺言が作成された期日と医療機関の診断書を照らし合わせ、判断能力や手を動かす能力が乏しいと立証できれば遺言書を無効にすることができます。

この記事の監修

谷 靖介

Yasuyuki Tani

  • 代表弁護士
  • 東京法律事務所
  • 東京弁護士会所属

遺産分割協議や遺留分に関するトラブル、被相続人の預貯金使い込みや遺言内容の無効主張など、相続紛争問題を中心に、法律を通してご依頼者の方が「妥協のない」「後悔しない」解決を目指し、東京都を中心に活動を行っている。

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