遺産分割における交渉について

遺産分割協議の交渉では、相続財産の全貌を把握してトラブルのない遺産分割を行うことが大切です。

ここでは、遺産分割協議での交渉で準備すべきことから遺産分割協議書の基礎知識についてご紹介します。

この記事の内容

遺産分割協議の進め方

相続人全員で相続財産をどうやって分割するか話し合う遺産分割協議。相続人全員が納得できる遺産分割方法が決まると、「遺産分割協議書」を作成することが一般的です。遺産分割協議書は相続財産が誰に帰属するのかを記した契約書のようなものです。不動産や預貯金の名義変更や相続税の申告などの際に必要となります。

遺産分割協議の流れ

①遺言書の確認

遺産分割の内容は、遺言書がある場合、遺言書に書かれた内容が優先されるので、遺産分割協議を始める前に、遺言書があるかどうかを調査する必要があります。

遺言と異なる内容で遺産分割を行うには、相続人全員が参加して遺産分割協議を行います。相続人が一人でも欠けると遺産分割協議は無効となるので注意が必要です。

遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行うことになります。

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遺言で相続人ではない第三者に財産譲渡されている場合

遺産分割協議は原則的には法定相続人だけで行うことになりますが、遺言書に友人や知人、愛人など、血縁のない第三者に財産を譲ると書かれていた場合には、その第三者も遺産分割協議に参加することになります。また、それ以外でも未成年の相続人がいる場合は法定代理人が参加するなど、相続人以外の人が遺産分割協議に参加することもあります。

遺産分割協議に参加できる第三者

①包括受遺者

遺言で財産の全部または割合を指定して相手に譲渡することを「包括遺贈」といいます。包括遺贈を受ける人を「包括受遺者」といいます。包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有すると規定されています。

②相続分の譲受人

相続分の譲渡とは、相続人としての権利を他人に譲渡することをいいます。相続分の譲渡は、他の相続人だけでなく、相続人以外の第三者へも可能です。相続分の譲渡が行われると、譲り受けた人は相続人と同じ権利を持つため、遺産分割協議にも参加することができます。

③遺言執行者

遺言執行者は、遺言の内容を実行するための必要な範囲内で遺産分割協議に関与することができるとされています。

④不在者の財産管理人

相続人が行方不明の場合、家庭裁判所で不在者の財産管理人選任手続きをおこないます。そのうえで、家庭裁判所から許可を得たうえで参加し、協議を進めることになります。

⑤未成年者の法定代理人や特別代理人

未成年者は、自ら遺産分割協議を成立させることができないので、法定代理人を立てます。夫が亡くなり、妻と未成年者の子が相続人といったケースで、法定代理人自身も相続人である場合には、家庭裁判所で未成年者に特別代理人を選任するための手続きを行い、同人が遺産分割協議に参加します。

⑥成年被後見人の成年後見人

相続人が成年被後見人である場合、成年後見人が代理を務め、遺産分割協議に参加します。

⑦委任を受けた代理人

第三者に委任をすることで代理人を立てることができます。多くのケースでは弁護士が代理人となります。

⑧相続人の破産管財人

相続人が破産手続きを申し立てている場合、①破産手続開始決定後に相続が発生した場合には、申立人である相続人は遺産分割協議に参加できますが、②破産開始決定前に相続が発生している場合には、破産管財人が遺産分割協議に参加することができます。

②相続人調査

遺産分割協議は相続人全員が参加する必要があります。そのため、協議を始める前に、誰が相続人に当たるのかについて調査を行っておきましょう。また、その際には相続財産関係図の作成や法定相続情報の取得などを行っておくことで、後の相続手続きをスムーズに進めることができます。

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③相続財産調査

遺産分割協議を行うにあたって、対象となる相続財産を確定する必要があります。相続財産には預貯金や有価証券などのプラスの財産(積極財産)と借金や保証債務などのマイナスの財産(消極財産)があります。マイナスの財産がプラスの財産を上回るような場合には、相続放棄を考えた方が良い場合もあります。

相続財産調査を終えたら「財産目録」を作成することで、協議中に遺産分割について検討しやすくなりますので、必ず作成しておきましょう。

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遺産分割協議書の作成

遺産分割協議は、後から「言った・言わない」「認識がズレていた」など、トラブルのぶり返しを防ぐためにも、遺産分割協議書を作成しておくことをおすすめします。

遺産分割協議書の書き方

遺産分割協議書にはどのような内容を書けばいいのでしょうか。一般的に記載される内容は次のようなものです。

  • どの被相続人についての遺産分割協議なのか
  • どの相続人が参加し、協議を行ったのか
  • どの相続財産を、誰が、どのように分割したのか
  • 遺産分割後に発覚した財産について、どのように協議するのか(財産目録)
  • 遺産分割協議が成立した日
  • 署名・捺印
  • 印鑑登録証明書や不動産登記事項証明書などの添付書類

遺産分割協議書を公正証書にしたい

遺産分割協議書は、公証役場で作成する公正証書の形をとることもできます。公証役場の公証人は、元裁判官や元検察官など法律の専門家であることが多く、法律的にも有効な遺産分割協議書が作成でき、公証役場でも一定期間保管されることから、紛失や他の相続人による改ざんの心配がありません。

遺産分割協議の交渉でよくあるトラブル

遺産分割協議の交渉でよくお受けするトラブルとして、次に挙げる事案があります。これらのトラブルも、弁護士が対応することで解決の糸口を見出せることがあります。

遺産分割協議後に遺言書が見つかった

あれだけ探したのに見つからなかった遺言書が遺産分割協議後に出てきた、というケースは少なくありません。基本的には遺産分割協議の内容のままで構いませんが、遺言書によって財産の贈与を受ける新たな受遺者が発覚したような場合には、遺言書による遺産分割か再度遺産分割協議をやり直す必要があります。また、遺言書の内容を見て、相続人のうちの一人でも「遺言どおりの相続がしたい」となれば、遺産分割協議の内容は無効となります。

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遺産分割協議がまとまらない

産分割協議は任意での話し合いですので、相続人同士の関係性がよくない場合や遺産の取得について考えが合わない場合には、主張が対立し、長期化する恐れがあります。しかし、相続税の納税機関は、「相続開始を知った日の翌日から10か月」となっています。期限を経過すると、延滞税がかかるので注意しなければなりません。

そのため、遺産分割協議を行う前に「交渉は○回まで」「何か月まで」という期限を設けて交渉に臨み、長期化・没交渉になりそうな場合は弁護士に相談されることをおすすめします。

他の方法で解決したい

「遺産分割協議がまとまらずいいかげんうんざりしてきた」という場合には、裁判所手続きである「遺産分割調停」と「遺産分割審判」を利用して解決を図ることも選択肢に入れましょう。

遺産分割調停は、裁判官と調停委員が入って裁判所で話し合う場です。あくまでも話し合いなので、遺産分割協議の延長線上とも考えられますが、第三者が介入するため、法律に基づいて冷静に話し合いが進められるというメリットがあります。

対して遺産分割審判は、一般的なイメージの裁判と似ています。対立する主張を法律に基づいて裁判官が判断します。調停と比較すると、長期化する恐れはデメリットといえます。また、審判で自身に有利な結果を導くには法的知識が求められますが、審判で決定された遺産分割には強制力があるため、自身の主張が通る証拠などがあれば大きなメリットとなります。

この記事の監修

谷 靖介

Yasuyuki Tani

  • 代表弁護士
  • 東京法律事務所
  • 東京弁護士会所属

遺産分割協議や遺留分に関するトラブル、被相続人の預貯金使い込みや遺言内容の無効主張など、相続紛争問題を中心に、法律を通してご依頼者の方が「妥協のない」「後悔しない」解決を目指し、東京都を中心に活動を行っている。

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