相続人調査

遺産分割を行うにしても「誰が受け取るべき人か」がわからないと始まりません。相続人調査において、代襲相続や推定相続人の廃除、相続欠落などの事情を考慮し、正しく相続人の確定を行う必要があります。

ここでは、遺産分割の最初に行うべき相続人調査の基本知識等についてご紹介します。

この記事の内容

遺産分割における相続人調査のポイント

相続財産の割合を話し合って決める遺産分割協議には、相続人全員が揃う必要があります。一人でも欠けていると遺産分割のやり直しをする必要が出てきます。そのため、後々のトラブルを防ぐうえでも、遺産分割の話し合いの対象を確定することができる相続人調査を最初に行う必要があります。

相続人と法定相続分

相続人は、法律である民法によって定められています。配偶者は常に相続人となります。他の相続人は、子、親・直系尊属(祖父母)、兄弟姉妹の順で、相続人となるものがいない場合に順に相続人となります。

そのため、子どもや直系尊属、兄弟姉妹について存命かどうかなど、対象となる相続人について調査を進めることになります。

配偶者+子ども(直系卑属) 配偶者:1/2、子ども:1/2
配偶者+父母(直系尊属) 配偶者:2/3、直系尊属:1/3
配偶者+兄弟姉妹 配偶者:3/4、兄弟姉妹:1/4

相続人調査の流れ

①配偶者の調査

被相続人の死亡時の「戸籍の附票」または「本籍の記載のある住民票」を取り寄せます。続いて、被相続人の出生から死亡までのすべての「戸籍」「除斥」「改製原戸籍」の謄本を取り寄せ、先に取り寄せた住民票などをもとに、本籍地から戸籍などを取り寄せます。

②子どもの有無の調査

相続人として子どもがいた場合、相続開始前に既にその子どもが亡くなっている等の場合には、その子ども(孫)に相続権が移ります(代襲相続)。また、子ども、孫と、被相続人の相続開始前に既に死亡していた場合にはさらに、その子(ひ孫)に相続権が移ります(再代襲)。

なお、「子」について、被相続人の死亡前に既に亡くなっている場合、「代襲」が起こります。子どもの場合、再代襲と呼ばれ、被相続人の孫まで代襲が起こります。なお、兄弟姉妹については再代襲がなく「代襲」しかありません。

③直系尊属の有無の調査

実父母、養父母の出生時までの戸籍の取り寄せを忘れずに行いましょう。直系尊属がいない場合は、兄弟姉妹の有無を調査します。

④兄弟姉妹の有無の調査

兄弟姉妹について、被相続人の死亡前に兄弟姉妹が死亡していた場合には、その子ども(甥・姪)に相続権が移ります(代襲相続)。しかし、子どもの時のような「再代襲」はありません。

戸籍謄本・戸籍の附票の取り寄せ

親子関係、婚姻関係は、「戸籍」「戸籍の附票」などを本籍地の市役所に対して請求し、取り寄せて調査を行います。相続人であれば、本籍地の市役所にある戸籍係などの窓口に対して、郵送で請求することができます。郵送の場合には、定額小為替などが必要になります。

戸籍の読み取り方

取り寄せた戸籍をもとに、配偶者や子ども、直系尊属の存在を調査していきます。戸籍は時代に応じて何度か作成形式が代わっています。その年代の内容、作成背景を理解することが戸籍を読み取るための大切な手がかりになります。

明治5年式戸籍

作成期間 明治5年2月1日~明治19年10月15日
編製単位 現実に生活を共にする戸主と家族。親族関係者にない者も「附籍者」として記載
本籍記載 居住地である屋敷を単位に番号を定める
編製原因 住所地での一斉登録。他管からの全戸の住所移転
消除原因 他管への全戸の住所移転、世帯全員の死亡、戸籍の改製
その他 公開に適しない記載があることから非公開

明治19年式戸籍

作成期間 明治19年10月16日~明治31年7月15日
編製単位 明治5年式戸籍と同じ
本籍記載 地番で記載。但し、屋敷番号で記載したものも存在
編製原因 (戸主の事項欄に記載)家督相続、他管からの全戸住所移転、戸籍の改製
消除原因 (戸主の事項欄に記載)家督相続、他管への住所移転、戸籍の改製

明治31年式戸籍

作成期間 明治31年7月16日~大正3年12月31日
編製単位 旧民法(明治31年)により「家制度」創設
本籍記載 地番
編製原因 (戸主と為りたる原因及び年月日欄に記載)家督相続、分家、転籍、戸籍の改製、再製、廃家(はいか)・絶家(ぜっか)の再興、一家創立など
消除原因 (戸主の事項欄に記載)家督相続、廃家、絶家、転籍、改製、再製

大正4年式戸籍

作成期間 大正4年1月1日~昭和22年12月31日
編製単位 明治31年式と同じ
編製原因 (戸主の事項欄に記載)家督相続、分家、転籍、戸籍の改製、再製、廃家(はいか)・絶家(ぜっか)の再興、一家創立など
消除原因 (戸主の事項欄に記載)家督相続、廃家、絶家、転籍、改製、再製

昭和23年式戸籍(現行戸籍)

作成期間 昭和23年1月1日~
編製単位 ひとつの夫婦とこれと氏を同じくする未婚の子
例外 未婚の親と子、外国人と婚姻した者及びその子
編製原因 (戸籍事項欄に記載)婚姻、離婚、離縁(但、新戸籍作成せず復籍の場合あり)、転籍、戸籍の改製、再製等
消除原因 (戸籍事項欄に記載)戸籍の全員死亡、他市町村への転籍、戸籍の改製、再製

平成6年式戸籍
平成6年12月1日より、順次コンピューターによる打ち換えが行われています。

戸籍の種類

現行の戸籍には次のような種類があります。

戸籍 現在在籍している人のいる戸籍のことをいいます。
除籍 記載者全員が「婚姻」「死亡」「本籍地を転籍」したなどの理由で在籍者がいなくなった場合、戸籍簿より除かれます。保存期間は除籍されたときから80年となっています。
改正原戸籍 法定に基づいて戸籍を作り直した場合の、作り直す前の戸籍のことをいいます。
戸籍附票 戸籍単位で、その戸籍に記載された人の住民登録上の住所を記載しています。
告知書 除籍、改正原戸籍を請求したものの、戦災や火災、保存期間が経過して廃棄されたなどの理由により交付ができない場合に、無料で交付される書面です。

相続関係図の作成

取り寄せをした戸籍などをもとに、相続人の関係図を作成します。作成にあたっては、氏名の横に生年月日や死亡日などを記載することで、より相続関係がわかりやすくなります。被相続人の本籍や最後の住所、相続人の住所も記載するとよいでしょう。

相続人調査でよくあるトラブル

相続人調査でよくお受けするトラブルとして、次に挙げる事案があります。これらのトラブルも、弁護士が対応することで解決の糸口を見出せることがあります。

相続人調査の結果、隠し子が見つかった

認知された子や養子は法定相続人となります。遺言書がある場合は家庭裁判所で行う遺言書の検認、ない場合でも遺産分割協議には相続人全員の参加が必要であるため、被相続人の死亡を知らせる必要があります。

相続人の一人と連絡が取れない・行方が分からない

相続人調査の結果、把握していなかった相続人が出てくることがあります。まずは被相続人の戸籍謄本をたどり、連絡の取れない相続人の本籍地を調べます。本籍地が判明しても、必ずしも本籍地に住んでいるとは限らないので、住所の履歴が載っている戸籍の附票を取り寄せます。その住所に手紙を出し、連絡を試みましょう。それでも連絡が取れない場合は、弁護士を通じて連絡を試みるのもひとつの選択肢です。

どうしても連絡がとれず音信不通の場合、家庭裁判所に対して、不在者に代わって遺産分割などを行う不在者財産管理人の選任手続きを進め、分割協議を進めることになります。

音信不通だからと無視して遺産分割を進めることは、法的に正しい遺産分割といえず、また、相続には時効がないため、後々のトラブルに発展する可能性があります。

この記事の監修

谷 靖介

Yasuyuki Tani

  • 代表弁護士
  • 東京法律事務所
  • 東京弁護士会所属

遺産分割協議や遺留分に関するトラブル、被相続人の預貯金使い込みや遺言内容の無効主張など、相続紛争問題を中心に、法律を通してご依頼者の方が「妥協のない」「後悔しない」解決を目指し、東京都を中心に活動を行っている。

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