特別受益は、贈与を受けた相続人と他の相続人との間でその贈与への考え方や感じ方が異なるため、トラブルに発展しやすい問題です。
ここでは、他の相続人に対して特別受益を主張したい、または他の相続人から特別受益を主張されたとき、どのように特別受益の主張や反論を進めるべきかについて解説します。
被相続人である故人が、相続人のうちの一人に対して生前に資金援助などを行っていた場合、他の相続人と比べて「一人だけ特別に利益を受けていた」ということになります。これを「特別受益」といい、他の相続人らはそれを指摘することで、相続財産に特別受益分を持ち戻すことで公平に遺産分割を行うことができます。
特別受益は、遺産分割協議や、裁判所の手続きである遺産分割調停や審判を通して主張を行います。
いずれの場合においても、単に特別受益を主張するだけでは、相手の相続人や裁判所を納得させることは難しいため、一般的には生前贈与などがあったことを証明する「証拠」を集めて交渉や主張を行うことになります。
預金の引き出しがあった被相続人名義の銀行口座の取引履歴などが証拠となります。また、大きな金額や定期的に不審な引き出しがあるような場合においては、「同時点において、被相続人には引き出す必要性がなかった」などの周辺事情も合わせて指摘していくことになります。
贈与の合意に関する資料 |
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生計の資本としての贈与に関する資料 |
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特別受益の価格を証明する資料 |
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被相続人からの特別受益とされる財産の提供方法はさまざまです。現金、証券、不動産などは贈与を行った時と相続開始の時点では価格が変動していることがあります。特別受益における財産評価は「相続開始時」を基準とするのが実務上の流れとなっています。
不動産 | 土地:相続開始時の時価 建物:相続開始時の時価とする説と贈与時の価格とする説に分かれます |
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金銭 | 貨幣価値の変動を考慮し、総務省統計局の消費者物価指数などを参考にして贈与時の金額を相続開始時の貨幣価値に換算 |
株式 | 相続開始時の時価 |
特別受益を認めると、その金額分を自らが受け取る相続財産から差し引かれることになるため、特別受益を主張された相続人は生前贈与があったことを認めない場合もあります。協議でまとまらない場合には、裁判所を通じて解決を図ることになります。裁判所で特別受益の主張をするためには、「確かに特別受益があった」ということを証明できる証拠が必要となります。
裁判所での話し合いである遺産分割調停でもまとまらず、不成立となった場合には自動的に審判へと移行します。審判において、裁判所が判断した結果(審判)に不満がある場合は即時抗告を申し立てることになります。
遺産分割調停において相続人全員の合意が得られると、その内容を「遺産分割調停調書」にします。裁判所が作成する書類で、死後凍結されていた被相続人の銀行口座から預金を払い戻すことができるなど、遺産分割協議書と同等の効果があります。
そのため、特別受益に関しても、調停で解決したにも関わらず再度持ち出してトラブルとならないよう、調書に「当事者全員は、相手方が受けた生前贈与について、今後、特別受益の主張をしないことを確認する」などの条項を入れることがあります。
調書の作成は裁判所が行いますが、相続人に弁護士がついている場合は、弁護士が案文を作成し、他の相続人と裁判所がチェックするというケースもあります。調停が成立し、調書が作成されると、原則的には今後遺産分割について話し合うことはできなくなりますので、自身に不利益条項が含まれていないかを慎重に検討する必要があります。
では、自身が他の相続人から特別受益を主張された場合には、どのように反論することになるのでしょうか。反論としては、以下の方法が考えられます。
特別受益は本当にあったか
身に覚えがない場合には、その根拠となる証拠資料が十分であるかどうか、贈与された内容が特別受益に当たるかどうかなどを具体的に検証していくことが大切です。また、他の相続人は贈与を受けていないのかなどについても検証します。
寄与分を主張する
被相続人の生前に献身的に介護をしていたり、被相続人の家業を無給で手伝っていた場合は、その貢献度に応じて相続分を増やす制度を「寄与分」といいます。寄与分を主張することによって、他の相続人から特別受益を主張されても、自らにとって有利な主張を通すことで相続分の減額を防ぐことができます。
特別受益の持ち戻し免除
特別受益が認められた場合、相続財産に特別受益分の金額を加えて相続人の相続分を算定する方法を「持ち戻し」といいます。被相続人によって「持ち戻しをしなくてもよい」という意思表示があった際は持ち戻しが免除されます。遺言で持ち戻しの免除の意思を示すのが通常です。その場合、特別受益の持ち戻しを行うことなく、遺産分割を行うことになります。
持ち戻し免除の意思表示は書面に残す必要はなく、口頭でも可能とされていますが、「生前、そう聞いた」だけでは他の相続人が納得することは難しく、トラブルに発展する可能性があります。
被相続人の遺言書の中に「生前贈与はなかったことに」というような記述があった場合には、特別受益は無効化されます。その場合には、特別受益はなかったものとして、通常通りに計算することになります。
谷 靖介
Yasuyuki Tani
遺産分割協議や遺留分に関するトラブル、被相続人の預貯金使い込みや遺言内容の無効主張など、相続紛争問題を中心に、法律を通してご依頼者の方が「妥協のない」「後悔しない」解決を目指し、東京都を中心に活動を行っている。